E.T.「ママ、この映画見て!Vol.20」最終回


ママ達におススメの映画をご紹介☆

1982年 アメリカ映画・ユニバーサル映画、120分 カラー
監督=スティーヴン・スピルバーグ、脚本=メリッサ・マシスン、音楽=ジョン・ウィリアムズ
出演者=ヘンリー・トーマス、ドリュー・バリモア、ピーター・コヨーテ、ディー・ウォレス、ロバート・マクノートン
同年公開の外国映画のベストテンで、キネマ旬報では批評家部門・読者部門で共に1位を獲得しました。

<ストーリー>

森の中に静かに降り立つ異星の船から現れる宇宙人たち。だが彼らの地球植物の調査は、
人間たちの追跡によって中断される。宇宙船は急いで空に舞い上がるが一人の異星人が取り残されていた。森林にほど近い郊外に住む少年エリオットは裏庭でその異星人と遭遇、彼をかくまう事にする。兄と妹を巻き込んで、ETと名付けられたその異星人との交流が始まったが、ETの存在を知っているのはエリオットたちだけではなかった……。

<鑑賞>

観たことのない人のほうが少ないかもしれない、メジャーでありかつ名作を最終回に取り上げます。今回は「E.T.」の見所を子供の目から見てみることにしましょう。

◎エリオットは、スピルバーグ自身?◎

主人公のエリオットは、体の弱い男の子でカリフォルニア州の郊外に住み、高校生の兄と、保育園の妹との3人きょうだいです。父親は「メキシコへ行っている」とだけ出てきます。母親の言動からするのに、愛人の女性と一緒にどこかにいるらしいのですが、メキシコに行っているということにしているように受け取られます。本当にメキシコにいるのかもしれません。

兄の友達と家で遊ぶものの、仲間に入れてもらえず、孤独な少年だろうと思われます。初めてE.T.を見つけた夜、誰も信じてくれず、「早く寝なさい」と突き放したように言う母親に、エリオットは「パパがいたら信じてくれたのに・・・」と言います。この一言は母親にとってものすごく刺さる言葉であり、エリオットの寂しさを表す言葉としてはっきりと親子関係を示しているとても重要な台詞です。

スピルバーグ自身が、ディスレクシア(読み書きが遅れる)という障害に悩まされ、のちにアスペルガー症候群であったと告白したように、孤独ないじめられっ子であったことと、実際に父親は離婚で一緒に暮らせなかったという体験をエリオット少年に投影させていることが、いかに孤独で夢見がちな少年であったかを伝えています。監督自身が映像に思いをぶつけたように、エリオットも本当の友達が欲しかったのでしょうね。

E.T.との出会いも彼が純粋であり、心を通わせる相手を探していたからこそ起こった奇跡の物語として描かれています。

◎映画で知ったアメリカ文化◎

色々なアメリカの文化をこの映画で知ることができました。
ピザの宅配は、この映画の大ヒットの後、爆発的に日本に急激に広がりました。この映
画の大ヒットまでは、宅配といえば寿司や中華の「出前」だったんですよね。

ハロウィーンについてもそうで、この映画の前後では、認識が全く変わってしまったのです。
ハロウィーンの存在自体は知ってはいても、なんでカボチャを祭ったり、変装して近所をめぐったりして、お菓子をもらって喜ぶのだろうぐらいにしか思っていなかったのですが、母親もキャットウーマンもどきの仮装をしてはしゃいでいるに付け、日本の正月に正装していたような「アメリカのお祭り」なんだと理解できました。
お盆だけどはしゃぐという国民性にも驚かされましたね。

そして、映画の中では大活躍の自転車バイクBMX(日本製で大阪の自転車屋さんのオーダーメイドらしいです)は、この映画のあと日本でも大流行でした。映画にも「BMXアドベンチャー」なんていうのが、上映されましたからねー。

◎子ども心を描く名人・スピルバーグ◎

E.T.とエリオットの友情は、E.T.がお留守番、エリオットが登校して学校の授業でカエルの解剖をするシーンで一心同体いや「一心双体」というべきかな、になるところでユーモラスに表現されます。

家ではE.T.が冷蔵庫からビールを取出して飲んではテレビで放映している映画を見て英語を学んでいます。ほろ酔い気分でキスシーンを見ていると、エリオットもいい気持ちになり目がうつろになって、好きな子にキスしてしまう・・・。キスという文化が日常ではない日本だったら大変ですよね、笑。

E.T.はテレビで放映している映画で、電話と自分の帰る所のことを英語で覚えます。これが有名な「E.T.phone home.」という台詞になります。
そしてここからが、ファンタジーの開始です。

色々な道具を使って、E.T.の星との通信の出来る機械を作ります。スピルバーグ自身も、きっと宇宙との交信を夢見た子どもだったんでしょうね。いや、「未知との遭遇」で描いた友好的宇宙人たちこそが、大人になっても持ち続けたスピルバーグの夢なのでしょう。
その意味では純粋に子ども心を持ったまま大人になったスピルバーグの作品に出てくる子どもたちはほとんどスピルバーグの分身だと言えるのでしょう。

◎音で語るSFファンタジー◎

映画が始まって10分、台詞らしい台詞はありません。ゼロではありませんが、吹き替え文字が必要のない程度の台詞です。その間宇宙船から迷い出たE.Tや捜索するNASAのメンバーの動き、宇宙人たちがあわてて宇宙船を飛ばそうとする、犬が吠え、人々が
懐中電灯で照らす光の流れ、影・・・そしてそこに流れるジョン・ウィリアムズの有名な音楽、見事な融合で、一気に無言で語ります。

同時に、ラストの10分でも同じように、バイクでの逃走から、森の中での宇宙船の出迎えのシーン、別れるE.Tとエリオット。見守るきょうだい、母親、NASAの研究者たち・・・。

台詞はほとんどなくどこの国の人でも見ればわかる感動のシーンです。涙なくして見られないのは、それぞれの子どものときの心に訴える力が映画にあるからなのでしょう。ここらあたり、スピルバーグとジョン・ウィリアムズのコンビ最強だと言えるのでしょう。

◎もう一人のスピルバーグと大団円◎

E.Tが星への通信をしていた寒空の夜、体調を崩して死にそうになるところから、科学者や医者が登場して、映画の様相がファンタジーからSFに変わります。

最初のシーンから登場し続けた、腰に鍵束をぶら下げた男が、「ジョーズ」の背びれのように姿は現さずに、E.Tの脅威の相手だということを示す演出でしたが、後半に登場してきて、実は10歳のときにE.T(この場合、個体を指すのではなく、Extra=外の、Terrestrial=地球の、地球外生命体)との遭遇を心待ちにしていたNASAの研究者だとわかります。

これも大人になったスピルバーグの登場として描かれていますね。
つまりこれは、全編スピルバーグの10歳のときの思いをビジュアル化した壮大なファンタジーなのです。
スピルバーグは監督であり、エリオットであり、NASAの研究者であり、観客でもあります。この本心からの思いが甘~いファンタジーで終わらずに名作に昇華させた大きな要因なのではないかと思うのです。

◎コラム連載を終えて◎

20回に渡って「ママに見て欲しい映画」を取り上げてきました。当初はママと子ども
という軸で選んで行こうと思い、思いつくままにDVDを振り返りながら見ていったのですが、なかなかママと子どもという構図の名作がありませんでした。

子どもが主人公の映画や、父と息子の映画が多くて、路線を少し変更せざるを得ませんでした。ママと子どもを主人公に描こうとすると別離ものしかないんですね。あとは死別するようなタイプの映画。

きっとママと子どもって強く繋がっていて映画の題材にならないんですよ、するとすれば難病ものですね。これは見ていてつらいから基本的には外しました。母と娘の確執を描くものはたくさんありますが、親と子どもより20年後になってしまいますからこれも外しました。

取り上げた映画はDVDレンタルで見られるものばかりです。少なくとも、
①子ども時代に返れる映画
②子どもの心って、意外にいろいろわかってるんだよという映画
③親と子の絆を描いた映画
というどれかに括れる映画を選んだつもりです。これからの子育てと、親(自分)育ちに少しでもお役に立てる映画と出会えればと、連載を書いてみました。

こういう機会を与えてくださったママそら☆こうちの、玉井史織さんにお礼申し上げます。そして読んでくださった皆さんにも。


最後に取り上げたかったけど、取り上げられなかった映画をタイトルだけ記載しておきます。
「赤ちゃん泥棒」「スリーメン&ベイビー」「グロリア(カサベテス版)」「汚れなき悪戯」「禁じられた遊び」「自転車泥棒」「鉄道員(イタリア)」「椿山課長の七日間」「がんばれ!ベアーズ」「ダウンタウン物語」「いけちゃんとぼく」「クロッシング-祈りの大地-(韓国)」「ミツバチのささやき」「友だちのうちはどこ?」「大人は判ってくれない」「やかまし村の子どもたち」「ギルバート・グレイプ」「スタンド・バイ・ミー」あげればキリがありません。

ぜひ、お気に入りの映画を見つけてみてください!



中1終わりから映画好きになり、洋画・邦画を問わずに映画館通い。
映画もDVDやテレビで過去の名作が簡単に見られる時代になりました。
映画館もフィルムからデジタルへ移行して、どんどん進化していますが、中でも映画で昔から描かれる普遍のものは、「親子の愛」です。

推定6,000本観た映画の中から、ママたちに観ていただきたい名作を毎回1本ご紹介します。
ご紹介する映画はDVDレンタルでご覧いただけるものから、選んでいます。
公認映画検定2級・美容室リグレッタ・オーナー/八木勝二
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